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【サイト名】うるし家族
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掲載内容 |
一軒家ギャラリーの夢 人と物のよりよい関係を探しながら
巷に物があふれ、それなのに心に触れるものにはなかなか出会えない。
人と物がもっと親しく交わることはできないものか。そんな思いが嵩じた時、ギャラリー開催を促すのだろうか。
一軒家という空間を手に入れ、自由な発想で人と物を結ぼうとする五人に話を聞いた。
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「今は実験途上なんです。・・・」 |
福井・武生市「う」山岸厚夫さん |
「ぎゃらりー・う」。主人は、ジーパン感覚の漆芸家
「漆はペンキと同じ。気軽な塗料なんです。」漆芸家の山岸厚夫さんは、今年三月、那覇のギャラリーで開かれた個展で、そんな大胆な発言をして人々を大いに驚かせた。
のびやかな刷毛目の根来塗りの盃、椀、皿、鉢・・・・。「ジーパン感覚の漆器」というご本人の言葉どおり、肩肘張らず丈夫な作品は、これまで漆器と縁遠かった人をも魅了した。
元気な漆器を作る人は、ご当人もいたって元気。過ぎるほどのカみなぎる人は、どうやら作家活動だけではあきたらない様子。
「他の作家からも刺激を受けて勉強したい」
そう考えて、二年前、地元で自前のギャラリーを始めたという。「ぎゃらりぃ・う」の”う”は、漆のう、うつわのう、兎(千支)のう、そして宇宙のう。それにしても宇宙とはずい分スケールが大きいですねと言うと、「宇宙の”う”の一点として、常に『これでいいのか?』と検証しながら、いいものを作っていきたいという意味なんです。」
福井県武生市氷坂町。JR武生駅から車で十五分。まだまだ里山もだんぼも残る新興住宅地の一角に、長四角形の巨大な積み木がぼんと置かれたような無骨な建物がたっていた。「建設会社の社長に、実はギャラリーが夢だと言ったら、『安く建てればいい。お金が払えなければ、うちの倉庫にするからいいさ』と言われてね。だから『ぎゃらりぃ・う』は、見た目は倉庫。だけど中身で本勝負!」 |
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物作りの作家による作家のためのギャラリー「う」。
日暮れて電気がともるとバーのネオシのような看板だが、そこはご愛嬌。 |
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訪れた日は、山梨のガラス作家、松岡洋二さんの個展を開催中だった。曲線が美しい涼しげなガラスが、木の厚板や漆盆にダイナミックに配されている。なるほど中身で勝負の心意気が伝わってくる展示だ。
「松岡君は山梨で個展した時に知り合ったんです。僕は各地で個展してるから、コレと思ったた人に会うと、『おれはあなたが気に入った。おれも学びたいから、ぜひうちに来てくれ』と言うんです。宿泊もできるからと言ってね」
山岸さんの漆作品(椀5,000円、盛り鉢15,OOO円から)が、松岡洋二さんのガラス(ぽってり丸グラス2,600円、三角コップ3,600円)をダイナミックに引き立てる。 |
そのためギャラリー隣の一軒家を宿泊施設として作家に無料で開放している。
「自宅にするつもりで建てたんだけど、結局、自宅は前のまま、ここは自由に使える場所にして、展示会の時は作家さんに泊まってもらってる。一緒にメシ食ったり、悩みなど語り合ううちに、半分親戚みたいになっちゃうんですよ。来てくれた作家には、『山岸のところの展示会は気持ちがよかった。あまり売れなかったけど有意義であった』と言わせたい。目指すは、作家が安心できるギャラリー」
布、陶器、ガラス、金属、版画、アクセサ リー・ジャンルは問わない。そして時に、 コンサートや映画会を開くことも。
「鬼の版画で知られる版画家の野村たかあき さんの個展の時は、野村さんがドラムを叩く と知って、僕も昔バンドやってたし楽器も揃
ってるからと、ここでコンサートを開催。作 家が演奏するっていうんで大盛況だった」
当初、二、三か月に一度だった企画展が、 今では月に二度と大盛況。「布戯絵」の作家、郷裕隆さんのように、二年間に四度も個展とワークショップを開いたいた剛の者もいる。
「予期せぬ出会い、ノリっていうのが僕は好 きなんですよ。欲得でなく何かやると、作家 もお客さんも寄ってくる。いい関係がいい回
転を、いい連鎖をつくるんです」
それにしてもユニークだ。山岸さんは、こ れはあくまでも実験、チャレンジだと言うが、アットホームなギャラリー誕生のいきさつには、山岸さんの漆芸作家としてのこれまでの歩みも大いに関係しているらしい。 |
そこでもう一つの拠点、鯖江布寺中町の工房「錦壽」に伺うことにした。
伝統の河和田漆器の産地で、塗師を家業とする家の五代目として生まれた山岸さんは、小学一年生のころから漆練りの作業を手伝わされるなど、跡継ぎとしてい
やおうなく漆の技術を身につけていく。そして高校卒業後、塗りの仕事だけでなく、得意先回りや集金まで任されるうちに、
「このままでは漆の仕事は、下駄と同じように消え去る運命にあると確信した」
生き残りをかけて選んだのが作家の道。一九八八年に初めて個展を開いたところ。
「消費者の漆器アレルギーには相当なものがあった。傷になる、手入れが大変と言われて、それなら落としてもへっこまない、傷がつかない漆器を作ろうと、根来塗の技法を思いついたんです。ざっくばらんに使ってもらうには、作るほうほうも肩肘張っては駄目なんです」
こうしてジーパンのような漆器が誕生した。
一 方で、問屋、デパート、ギャラリーなど、 中間業着のカが強すぎて、作り手が「哀しい 状況下にある」ことも痛感した。
「だったら逆に、自分も小売店の立場に立っ てみよう。ギャラリーの親父をやって身をも って苦労する中で、いい売り方、理想とする
ギャラリーのあり方を追求しようと、とりあ えず福井の片田舎で始めた。ここで成り立つ ギャラリーをやれたら、全国どこでもできる
と思う。だから今は実験途上なんです」 築百年以上という古民家。床一面に漆を塗 つた部屋で熱く語る山岸さんの思いは、宇宙
のかなたまで飛んでいきそうな勢いだ。
「実はこの床はコンパネ。合板に漆を塗った だけなんです。だけど、いいでしょう。漆の ちから。漆の底力ですね」
同じ言葉を山岸さんにも贈ろう。
底力の塊のような人である、と。
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漆塗りの丸テーブルを中心に常設作家のうつわなどを配して和のしつらいを提案したコーナー。
自然素材の持つ風合い和やかな雰囲気を演出する。 |
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