緒形 拳さんとの出会い

緒方拳さんは2ヶ月に一度、身体を休める為に山中温泉の宿に行かれていたようです。
そこの女将さんが私の作品を気に入って下さり、法事の引き出物に使って頂いたり、
色んな作品を買って下さいました。

ある時、緒形拳さんの夕食に私の荒挽尺0盛鉢に料理を持って出されたそうです。
そして1時間後に部屋に行ったら、何も食べずに正座してジーッと料理を見ておられた
ようです、どうしたのですかと問うと
「この盛鉢はどなたの作品ですか?」
女将は私の名前を教えたそうです。

それから1ヶ月後、女将から電話がありました
「緒形拳さんが漆塗りしたいと、教えて欲しい」

ビツクリしました。でも丁度その時、工房を修理していて大工さんが毎日来ていました。
女将さんに
「今、工房の修理で大工さんが来ているから、あと2ヶ月後ならいいけど」
と答えました。

それから電話はありませんでした。
ある日、東京出張の朝、新聞を見ると、三越本店で緒形拳さんの個展の記事が載って
いました。
よしっ、縁もあった訳だから見に行こう

初日の午前中、三越本店に見に行きました。
多くのお客さんが居られました
担当の方に緒形拳さん本人はいらっしゃいますかと聞くと、おられますとの答え、
私の会いたい事情を説明すると、どうぞと言って奥に案内されました。

するとファンの女性と座ってニコニコと歓談されていました。
私はトコトコと近づき
「漆の山岸厚夫ですれど」と話しかけると
緒形さんはバッと立たれ、直立不動のような姿勢でビックリされた様子で
「あの作品は素晴らしいです」
私は
「有難うございます、この前は工房に大工さんが入っていて来て頂けなくて申し訳
なかったです」 と話すと
「いや、これからも素晴らしい作品を作って下さい!!」

私は緒形拳さんがあまりに堅い様子などて、長居しないほうがいいと判断して、
挨拶して帰りました。

私の内心はサインでも貰おうかと思っていましたが、緒形拳さんは突然に私が
来たのでビツクリされていて、とってもサインがもらえる状況ではありませんでした。
私にとってはいい思い出です。