山岸厚夫の「ジーンズ感覚の漆器 誕生物語」

漆器は傷つき易く手入れが大変という声が多いことから、漆を研究しました。

自然に生えている漆から漆掻きしてみました。

漆の木から樹液が出て固まった状態に爪を立ててもキズなど付きません、カマなどの鉄でたたくと石のような音であります。

こんなに硬い漆がなんで器に塗られた完成品はすぐキズが付きやすいのか、研究しました。

漆屋さんから上塗り漆を買って塗ると、きれいな表面で艶もいい感じで仕上がります。

しかし、爪を立ててキズつけるキズがつきます。

つまり、漆屋さんはきれいな表面になるように何か加工しているのではないかと推測しました。

そこで、漆に何も加工してないものは何か ?

 生漆と言って漆の木からとれたままの樹液があるとのこと、
しかし水分が多いので、

昔は太陽の光をあてて攪拌、今は電灯の光と熱を与えて攪拌することにより、水分を蒸発させて
漆の本質であるウルシオールの純度の高い漆を作ったものが素黒目漆(スグロメウルシ)という。

私は私の工房で使う漆はすべて何も添加物のなくウルシオールの純度の高いスグロメ漆のみを使用することにしました。
透き漆、黒漆もそして朱漆も漆屋さんに朱の顔料をスグロメ漆と練って作ってもらうことにしました。

次に塗り重ねは何回塗るのが理想なのだろうか、塗れば塗るほど丈夫なのだろうかと研究しました。

(漆器売場での営業トークを聞いていると、この漆器は何十回も塗り重ねているからすごく丈夫ですという声を耳にします)

木地に下地をします、下地というのは生漆に地の粉やとの粉を混入した混合漆で塗ります。
家作りで言えば壁塗りみたいなものです

何回も壁塗りをすればするほど厚みはでますが、当たった時など衝撃でボロッととれることもあります。
その場合、木地は傷んでいませんが下地がとれた状況でも剥げたということになります

すれば厚い下地を何層もすればするほど丈夫とは限りません

生漆に地の粉やとの粉を混入せずに漆のみの塗り重ねはいいのではないか

それは地の粉を混入しているものより丈夫と思われます。

しかし、それもあまりに何層にもすると、壁塗りと同じ、欠けやすい原因にもなります。

どうすればいいのか

私は考えました、木地そのものを硬くすればいい

つまり木地に沢山漆を浸み込ませば、木地は硬くなる、木地そのものが硬くなれば丈夫である。

次に厚くない下地をする

地の粉やとの粉と漆の比率だが、研究したところ、漆が多い方が丈夫だと分かった。

一般的には下地は粘土のような粘りのある固さの為にヘラで塗る

しかし、漆の混入を多くすると粘土はあまりなく、どろどろ状態である

私は刷毛で下地をすることにした。すると刷毛目が出る

地研ぎと言って下地を研いで次の中塗りの密着をよくするためにするのだが、刷毛目が取れるほど研ぐのは大変である

また漆分が多いので丈夫だから なお、研げない

いいや、ハケメが残っててもいい、これが俺の漆塗りの味だと決めてハケメがあるまま塗り重ねることにした。

地元の伝統工芸士(私の父も)からはブーイング、こんな塗り、漆器でないとか、へたくそな塗りなど批判ゴウゴウでした。

親戚の方に研ぎをお願いしたら、こんなひどい塗り研げるか!と足で椀の入った箱をけりました。

私はクソッと思いました。

外注は出さないでおこう、自分の家族のみで下地、研ぎ、中塗り、上塗りしようと決めました。

実際外注で塗ってもらったりしても純度の高い漆で塗ってくれるか不安だし、研ぎも私の思いどおりならない

最終の塗りである上塗りしました、確かに以前の漆器とは丈夫な表面でしたが、もっと丈夫にできないかと考えました。

そうだ、木地に漆を浸み込ませることで丈夫になったのだから、最終塗りでも同じようにしょうと決め、

上塗りで乾いた後に細かいペーパーで研ぎました、そしてその上にスグロメ漆を浸み込ませることにしました。

そうして仕上がったら、爪を立ててもキズが全くつきません

やったーと思いました

いつも買って下さる漆器問屋さんの仕入れの方に見せました。

今までの漆器と雰囲気が違うので、すぐ仕入れしましょうとは言ってくれませんでした。

百貨店で1週間の展示会してみましょうと言って、展示会しました、全く売れません

チョット悩みました。

そうだ直接お客様にぶつけてみよう

取引のある小売店やギャラリーの方々に電話しました

「展示会してくれませんか?」

「今回と次の年にも展示会の約束して欲しいのです」

なぜ2年連続で個展をお願いするかというと、今月汁椀買って頂き毎日使ってもらう、365日使って、もし剥げたら、次の年の個展のときに
持ってきてもらい、無料修理または取替えする約束したい

北海道から沖縄まで了解してくれる店が増え、毎日どこかで個展する日々になってきました。

「毎日使って下さい、陶器を洗うのと同じでいいです、

スポンジのやわらかい部分で台所洗剤を使ってもいいです、

忙しい日々だと思うので、すすいで洗いっぱなしで伏せておくだけでいいです。

確かに軽く布巾で水気をとると長持ちしますが、無理してしなくていいです」

皆さんに声をかけました。

店内を一周して帰られる奥さんに私は

「一つ私の椀を買って下さい、丈夫さを1年間試して欲しいのです」

と言って強引に買って頂きました、ですから来られたお客様ほとんどの方に1個は買って頂いたと思います

そして1年過ぎ、全国また毎月回りました、本当に丈夫か心の中は少し不安でしたが……

すると皆さん5個ずつ注文の方ばかり

「丈夫です、私だけではなく家族の分を買わせて頂きます」

私は嬉しかったです、お店の人も昨年の売上の倍以上ですから嬉しそうな顔

そして次の年も全国まわり個展し、3年間、日本一周した感じです

4年目からは私は行かないけれど展示会して下さる店は沢山あり、6年以上毎年して下さる店、今でも毎年一回展示会して下さっている店が
何件かあります。(もう20年になります)

初めて個展した年から10年経って店を回りました。オーナーの皆さんが同じことを言われビツクリしました、それは

「山岸さん、漆器を食器洗浄機にかけていいですか」と問うのです、私は

「いや、かけないで欲しいですね、寿命が縮みますよ」

するとオーナーが急に小さい声になり

「でもね、山岸さんの漆器を食器洗浄機にかけている方、多いんですよ、お客様が山岸さんのは大丈夫だからと言われます」

私はビックリしました。食器洗浄機対応の漆器を作ったつもりはなかったのですが、実際使っておられる方が多いとは…

それが行くところ行くところの店のオーナーが同じをことを言われるのです

私も慣れてしまって他の店の方も言われましたと話ししました。

現在は食器洗浄機対応の漆(MR漆 )も市場に出ており、販売もされていますが、その漆が出る前の話でしたから

またある百貨店の店員さんの話ですが、自宅で陶器を磨こうと磨き砂で磨いていて、ウッカリ漆の皿も磨き砂でこすってしまった
しかし、キズも剥げもなくビツクリした、この話をお客様に話すと良く買って下さったとのことで、当時一番販売して下さいました。

現在(平成25年2月)、日本産漆で椀など塗って仕上げていますが、木固めとか最終の仕上げ方法は同じにしています

この仕上げ方法を一般の方々にもわかりやすい「ジーンズ塗り」と名付けようと思います。

山岸厚夫のジーンズ塗り
実務に適し、作業性があり丈夫さを追求したジーンズ、その感覚を漆塗りに応用しました。
キズに強く、丈夫さを主眼におき、ジーンズ加工のように古びた感覚に仕上げる塗り方